電気と熱の力で切開や止血ができる電気メス
電気メスは、電気を使って組織を切ることが出来る装置で、出血を止めながら切っていくことが出来る利便性により、現代の外科手術では必要不可欠な機器となっています。
「電気メスはなぜ切ったり止血したりできるか」を紐解く前半パートとして、「電気メスで利用するジュール熱と放電熱」について下記のコラムで詳しくお話していますので、本記事に先駆けてよろしければご覧になってください。
電気メスってなんで切れるの?止血できるの? ~電気と熱の科学編~
今回の記事では電気メスの切開・止血の仕組について、今回は後半パート、切開モード・凝固モードでの波形の違いについてお話していきたいと思います。
切るか固めるかの温度コントロール
前回の記事にてお話ししました内容を簡潔にまとめますと、
・電気メスは、電流を人体に流したときに発生する「ジュール熱」や「放電熱」を利用している
・熱が加わったタンパク質が高温で蒸発すると「切開」作用が得られる
・熱が加わったタンパク質が変性して固まると「凝固」作用が得られる
ということが分かりました。
今回は電気メスで使用される出力の波形の違いについてお話しいたします。
切開モードで使用する連続波
切開モードで使用される電流の波形は連続波です。
連続波とは、その名前の通り連続して出力され続ける波形です。
メス先から組織に流れ続ける電流がジュール熱を発生させ、細胞の温度を瞬時に蒸散させる高温まで上昇させます。メス先でなぞった組織の細胞を次々に加温し蒸散させるため、あたかもメスで切っているかのように見えます。
凝固モードで使用する断続波
凝固モードで使用される電流の波形は断続波です。
断続波とは、出力と休止を繰り返し行う波形のことです。
切開では連続波により細胞が蒸散する温度まで到達しますが、凝固では断続波ですので細胞が蒸散する温度に達する前に出力が休止し、細胞は蒸散せずタンパク変性するまでに留まります。
変性を起こしたタンパク質は、出血部位をかさぶたのように覆うことにより止血します。
止血しながら切るためのモード
電気メスの出力モードでは、止血しながら切るための「混合切開」や「ブレンド」と呼ばれるモードがあります。連続波に休止時間を加え、その長さを伸ばすことによってタンパク変性にとどめるタンパク質が増え、切開しながら止血できるようになります。その断続波の出力時間と休止時間の長さを調整することで、切れ味と止血力の程度を調整することができます。
この出力時間と休止時間の割合を表したものを、デューティサイクルといいます。
デューティサイクルとは、周期に占める出力の持続時間がどの程度かを示す割合です。
デューティサイクルが1に近づくほど、純粋な連続波の波形に近づきますので、切開性能はより高く、凝固性能はより低くなるといえます。
まとめ
今回は電気メスの切開・凝固に用いられる波形についてさせてお伝えいたしました。
次回は対極板をより安全に使うための貼り方や剥がし方についてお話させていただきます。
より詳しい話にご興味をお持ちいただけましたら、弊社では電気メスについての勉強会も開催しておりますのでお気軽にお問い合わせください。