全身麻酔の目的
全身麻酔の3つの概念として、鎮痛・鎮静・筋弛緩があります。
鎮痛は読んで字のごとく痛みを軽減すること、
鎮静は患者さんの意識を意図的に消失させること、
筋弛緩は治療中の筋肉(骨格筋)の緊張を弛緩し、力が入らないような状態にすることです。
なぜこのような状態にするかというと、術者である医師が手術しやすい環境を作り出すためです。手術中に急に患者さんが起き上がったり、痛みを訴えて暴れたりしたら大変ですよね。医師が安全に手術を遂行できる環境を整えること、それが全身麻酔の役割と言えます。
一方で、麻酔をかけることで呼吸の動きを止めてしまう副作用もありますので、全身麻酔をかける際には必ず呼吸を維持できるよう気管挿管し、人工呼吸器での呼吸サポートを行います。
【製品ページ】全身麻酔手術時に用いられるハイエンド麻酔器 ”A9麻酔システム”
吸入麻酔と静脈麻酔
手術時やICUなどで使用される全身麻酔には、主に吸入麻酔と静脈麻酔の2種類があります。どちらも最終的に脳の中枢神経系に作用しますが、投与経路が違うので区別されて呼ばれています。
吸入麻酔
気道を介して投与された麻酔薬が、肺胞の動脈から取り込まれ、「肺静脈→心臓→全身」の順で血液とともに循環し、脳に作用します。
静脈麻酔
腕や頸部から挿入された点滴ラインを介して、麻酔薬を直接血管内に注入し麻酔をかけます。こちらも「末梢静脈(または中心静脈)→心臓→全身」の順で循環し、脳に作用します。
ただし両者とも、血圧低下や呼吸抑制といった非常に注意すべき副作用が出現しますので、麻酔薬投与中のモニタリングは必須となります。
麻酔薬の種類
医療現場ではさまざまな部署で薬剤が使用されております。
例えば、手術室では気化麻酔薬や静脈麻酔薬を使用します。
ICUや各種検査室などでは、多くの施設で余剰麻酔ガスを排出する装置が設置されていませんので、気化麻酔薬は使用せず静脈点滴から静脈麻酔薬(鎮静剤)を投与し、鎮静させる手段をとります。
たくさんの種類がある麻酔薬ですが、その中でも一般的に臨床(手術室・ICU)でよく使用される麻酔薬をご紹介します。
吸入麻酔薬
名称 |
特徴 |
セボフルラン |
・フッ素化されたメチルイソプロピルエーテル ・甘い香りを持つ ・デスフルランに次いで効果発現と消失が速い |
デスフルラン |
・フッ素化されたメチルエチルエーテル ・気道刺激性が強い ・最も効果発現と消失が迅速 |
イソフルラン |
・ハロゲン化エーテル ・動物に対して使用することが可能 ・脳保護作用が強い |
笑気 |
・一般名:亜酸化窒素(N₂O) ・歯科や美容外科で使用されることが多い |
吸入麻酔薬の興味深い点は、意識レベル低下をもたらす分子細胞標的が未だに解明されていない点です。今後の医療発展に伴い、作用機序が判明することが期待されます。
静脈麻酔薬(鎮痛薬・鎮静薬・筋弛緩薬)
名称 |
特徴 |
レミフェンタニル |
・超短時間作用性の合成麻薬 ・全身麻酔の導入、維持における鎮痛 ・全身麻酔薬の併用が必須 |
フェンタニル |
・麻酔、鎮痛目的で使用される合成麻薬 ・レミフェンタニルより投与後の濃度低下が緩やか ・術後鎮痛、ICU、緩和医療領域などで頻用 |
チオペンタール |
・バルビツール酸麻酔薬 ・脳幹網様体賦活系の抑制作用 ・脂溶性が高く、反復投与により脂肪組織に蓄積しやすい |
プロポフォール |
・GABAA受容体作用とNMDA受容体抑制作用 ・投与後速やかに作用出現し、投与後10秒程度で鎮静効果を得る ・投与中止後、約10分程度で意識回復を得る。 (※投与速度・投与量・投与時間による) |
ミダゾラム |
・ベンゾジアゼピン系麻酔・鎮静薬 ・投与後10秒~2分以内の鎮静効果 ・依存性、離脱症状などの副作用 |
ロクロニウム |
・アミノステロイドの非脱分極性神経筋遮断薬 ・骨格筋を弛緩する効果 (※気管挿管を行い易くするために多く用いられる) |
まとめ
麻酔薬は患者さんを鎮静させ、手術環境・診療環境を整えることができる有用な薬剤です。
一方で副作用も強いので、リスクとベネフィットを重々考慮した上で、薬剤の選択および使用量を検討することが重要となります。
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