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膵液瘻の恐怖と閉塞しないドレーン

膵液瘻のリスク

消化器外科医にとって、手術後にドレナージする液体の中で最も物騒なものは「膵液」です。

なぜなら膵液はもともと蛋白質や脂肪などを効率よく消化するための強力な酵素であり、この強力な消化液がいったん腹腔の中に漏れ出すと、食物ではなく周囲の臓器を溶かしてしまうからです。例えば消化管の吻合部を溶かすと縫合不全となり、手術操作でむき出しになった血管が溶かされると大出血となってしまう恐れがあります。

膵頭十二指腸切除術(PD)が、その再建法もさることながら、周術期管理に極めて高い神経を使う難易度の高い手術に位置付けられている所以は、この膵液瘻のリスクに依ります。

 

膵液瘻のケア ~ドレナージの重要性~

膵臓と小腸を吻合する膵空腸吻合ですが、その吻合部は組織が違うため癒合しにくい傾向にあり、一定の割合で膵液の漏れが生じます。

膵液瘻の怖さは、ドレナージ不足で腹腔内に漏れ出た膵液が溜まっていくと周辺組織とともに手術で剝き出しになった血管壁を融解し、動脈性の大出血を誘発することです。

このような物騒な膵液瘻を完全になくすことができない現状、漏れた膵液は速やかにドレナージされることが必須です。排液性が良く、詰まりにくいドレーンが活躍する場面となります。

膵臓手術後の排液は、膵液瘻が溶かした周囲の組織も含まれためドレーンが詰まるリスクも高くなります。ドレーンの閉塞に気づかず膵液が貯留し大出血といった最悪の事態になることを恐れ、膵臓外科医は術後に帰宅できないこともあるほどです。

膵液瘻が発生しても、漏れ出てくる膵液をドレーンが確実に拾って腹腔外に排出してくれれば時間の経過とともに膵液瘻は確実に治癒します。しかし、ドレナージが効かないと高熱や腹痛の原因となるばかりでなく、吻合部にまで炎症を及ぼし二次的な縫合不全の原因となることさえあるのです。

 

適切なドレーンの選択

「膵液瘻になるのは仕方ない、でも重症化は避けたい!」というのが膵臓外科医の偽らざる本音なのかもしれません。

そうした場合、重症化させないための方法はドレーンによる確実な膵液のドレナージしかありません。たとえ膵液が漏れてしまっても、ドレーンがしっかりと本来の役割を果たしてくれていれば、膿瘍を作って高熱を出したり、ましてや血管が溶けて出血することもなくなるはずです。

膵頭十二指腸切除術(PD)後のChild変法による再建とJPタイプフラットドレーン

 

そのためには、詰まらないドレーンを膵液の漏れ出る適切な位置に留置し、膵液を速やかに体外に排出することが何より重要です。

膵液瘻が持続した場合の長期的ドレーン留置に関しては、本来は膵液瘻でなかった症例がドレーンからの逆行性感染やバイオフィルムによる内因性感染により膵液瘻に発展するという考え方もある一方、膵液瘻が継続する間、閉塞しないドレーン(JPタイプフラットドレーン)を留置し続け、ただ待つだけで、閉塞することなく膵液瘻をドレナージし続け、重症化しなかったとする報告もあります。

 

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