現代の手術室には必要不可欠な電気メス
電気メスは、電気を使って組織を切ることが出来る装置で、出血を止めながら切っていくことが出来る利便性により、現代の外科手術では必要不可欠な機器となっています。
「電気メスとは何か?」「電気メスで用いる電流の種類」については、下記のコラムで詳しくお話していますのでよろしければご覧になってください。
では、電気を流して組織を切ったり、出血を止めることが出来るのはどういった仕組なのでしょうか?
今回の記事では電気メスの切開・止血の仕組について、まずはその前半パート、電気と熱の関係、そして人体に対する熱の影響についてお話していきたいと思います。
電流とジュール熱
電気の正体とは「電子の動き」です。電子を押す力(電圧)によって、電子が一方向に流れます(電流)。この際に電子の流れを邪魔するものを抵抗といいます。電気が流れにくい物体の性質であったり、電流の経路が狭かったりと、電子が通りにくい環境は「抵抗が高い」といえます。
電子が抵抗となる分子に衝突したり、狭い通り道で電子同士が衝突したとき、電子のもつ運動エネルギーが熱エネルギーに変わります。
抵抗が高いほど、また電流が高い(流れる電子の数が多い)ほど、電子が渋滞していっぱい衝突するイメージで、発生する熱も大きくなります。また、電流が流れる時間が長いほど発熱も大きくなります。この法則を、ジュールの法則といい、発生する熱をジュール熱といいます。
抵抗R[Ω]に電流I[A]がt秒間流れたときのジュール熱Q[J]は、下記のようになります。
電気メスにおいては、メス先を通して組織に電子が流れていきます。
その電子が組織内のタンパク質や水といった分子と衝突し、ジュール熱が発生します。
電流と放電熱
ジュール熱の話はいったん置いておき、電気メスに関係するもう一つの熱エネルギーについてお話ししましょう。もう一つを放電熱といいます。
放電と言われて連想するのは、カミナリですよね。雷は雲の中で発生した電子が、雲から飛び出して空気中の分子と衝突しながら進みます。電子は出来るだけ通りやすい道(抵抗の低い経路)を進み、一度電気が流れた地面と雲の間には、より電気が流れやすい道(放電路)が出来ます。放電路をたくさんの電子が流れて、その道が発光して稲妻が見えます。最終的に電子は地面と衝突し、その際にとても大きな熱を発生させます。この熱を放電熱といいます。
電気メスにおいては、メス先から飛び出した電子が組織に衝突した際に、組織の表面で放電熱が発生します。
組織の温度と細胞の変化
ジュール熱と放電熱。2つの熱の話をしましたが、これらの熱こそが組織を切ったり、止血する力となっているのです。
人体の組織に熱が加わると、その温度の上がり方の違いによって組織が蒸散したり、たんぱく質が固まったりします。
目玉焼きをイメージしてください。フライパンでじわじわと熱を加えていくと透明な卵白が徐々に白く固まっていきます。もっと高温で、直火でいったらどうでしょう。真っ黒に焦げてしまいますね。
細胞の温度が100℃以上になると細胞の水分は蒸発します。より高温になるとタンパク質の構成分子である炭素が露呈し黒くなり、さらに高温になると細胞は蒸散します。
電気メスは、出力を制御することで組織の温度上昇をコントロールし、細胞を蒸散させたり、細胞のたんぱく質をタンパク変性させたりします。その細胞の蒸散が「切開」、タンパク変性が「凝固(止血)」なのです。
他には、100℃~180℃程度にコントロールして、組織を炭化させずに凝固させるソフト凝固などもあります。
まとめ
電気メスで組織を切ったり、止血をするには、電気を流した際に生じる2種類の熱を利用しているということがご理解いただけましたでしょうか。
次回の電気メスのお役立ち情報では、電気メスではどのように熱をコントロールしているか、モノポーラとバイポーラの各モードについて解説をしていきたいと思います。
関連情報
電気メスってなんで切れるの?止血できるの? ~モードと波形の違い編~