ミルキングによるドレーンの破断
ミルキングとは、ドレーンをしごき、体腔内の物質を排出する操作です。開心術後ドレナージで、その開存性を維持するために実施されるミルキングですが、その方法として最も多用されているのはアルコール綿です(下図)。
アルコール綿でのミルキング
アルコール綿は、ドレーンをしごく際によく滑り消毒効果もあるためミルキングに便利な一方で、対象となるドレーンの素材は硬く強度の強い塩化ビニル製から柔軟なシリコーン製に移行してきました。そのような流れの中でミルキングによるシリコーンドレーンの破損例が多く報告されるようになってきました。
開心術後のドレーンは術後の心タンポナーデ等の合併症を予防するために術後平均4日間程度留置されますが、その途中で破損した場合、ドレーンを介した逆行性感染から縦郭炎を引き起こすなど重大なインシデントとなりえます。
ドレーンの破断の原因
破断の原因として考えられているのが、シリコーンとアルコールの相性です。
アルコールはそもそも溶剤ですからシリコーンの表面に付着させた場合、そのポリマー表面が膨潤すると考えられます。膨潤し、ふやけた状態のシリコーンをミルキングで引っ張った際、当然にその引張強度も低下しドレーンの破損リスクが高まることが危惧されます。
アルコール(エタノール)付着前後のシリコーン製ドレーン及びポリウレタン製ドレーンの引張強度の低下度を調査した実験データが右下のグラフです。左下の画像は、JIS T-3215 4.2.2 「体内留置排液用チューブ及びカテーテル」に基づく社内実験の様子です。
ドレーンにアルコールを付着させたときの強度は、シリコーン製で50%、ポリウレタン製で70%程度低下することが分かりました。
昨今のシリコーン製ドレーンやポリウレタン製のドレーンの添付文書にはアルコール綿でのミルキングを避けるよう注意喚起されています。因みに他の素材(塩化ビニルなど)にはこうした劣化はみられませんので、特にシリコーン製、ポリウレタン製のドレーンをアルコール綿でミルキングする操作は避けるべきです。
シリコーン製ドレーンの安全なミルキング方法
そこで開発されたのがシリコーン製ドレーン専用のミルキング用デバイス「メラミルキングローラー」です。軽量なプラスチック製で、指でミルキングしているような感覚での操作が可能です。
従来から販売されている金属製のローラー鉗子は、ローラーとローラーが接触する構造なので、シリコーンのような柔軟なドレーンを挟むとローラーは回転せずドレーンを引きずるため、ドレーンに過度の負荷が掛かっていました。
金属製ローラー鉗子
しかし、シリコーン専用のメラミルキングローラーはローラーとローラーが接触しないデザインのため、よく回転し、ドレーンを引きずることなく効果的にミルキングできます。
ミルキングローラーは、アルコール綿や金属製ローラー鉗子を使わなくても安全かつ効率的にミルキングできる、知る人ぞ知る“すぐれもの”なのです。
メラミルキングローラー メラミルキングローラーでのミルキング
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