電気メスって何?
電気メスは、その名の通り電気を使ってメスのように組織を切ることが出来る装置です。電気を流したときに発生する熱を利用することで止血しながら切っていくことが出来るため、金属のメスに比べて出血が少なく、いまでは外科手術に必要不可欠な機器として使用されています。
この記事では、そんな電気メスに利用されている「電気」についてお話していきたいと思います。
直流電流と交流電流
下の図は乾電池と豆電球が導線で接続されている様子です。理科の教科書でたびたび見かけた図だと思いますが、我慢してもう一度見てください。「電流はプラスからマイナスの向きに流れる」「電流は1周できる回路がないと流れない」と習ったのを思い出してもらえますでしょうか。こうした一方向に流れる電流を「直流」といいます。
直流回路
対して、コンセントから流れる家庭用の電気などは「交流」にあたります。交流では、電流の向きが一定のリズムで入れ替わっています。電流の向きが2回入れ替わって元と同じ向きに戻る1サイクル(1つの波)を、1秒間に何回繰り返しているか、これを「周波数」といいます。家庭用の商用電流では、1秒間に50回または60回の波が繰り返される交流電流(50~60Hz)を使っていますが、電気メスのメス先から出力される電流は、1秒間に30万回から500万回の波が繰り返される高周波電流(300kHz~5MHz)です。
交流回路
正弦波交流波形
交流電流でも、直流電流と同じく「電流は1周できる回路がないと流れない」ことは同じです。電気メスから出力される電流は、下の図のように人体を通って1周する電気回路を作っています。この状態で、生体組織とメス先電極の接点で切ったり、止血することができます。
高周波電流のループ回路
電気を流しているのに感電しないの?
ここまでの話を聞くと「体に電気を流しているのに、なんで感電しないの?」と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。
これが先ほどお話しした「電気メスで使われる電流は高周波電流」である理由でもあります。下のグラフは、電気の周波数が高くなるにつれて人体がビリビリと感じ始める電流値(最小感知電流)がどう変化するかを表したグラフです。周波数が高くなればなるほど最小感知電流は高くなっていき、1kHzを超えたあたりからは殆ど比例して最小感知電流が高くなっていくことが分かります。
これは人体の神経が電気刺激を受け取りやすい周波数帯が決まっていることに関係しています。商用電流の50kHzや60kHzと比べると電気メスで使用される300kHz近辺では1000倍の電流を流さないと感電しないくらい、人体は高周波電流を感じにくいというわけなのです。
「じゃあ周波数が高ければ高いほど良いってこと?」と思われるかもしれませんが、そうもいかなかったりします。電流は周波数が高ければ高いほど物体の表面を通るようになるという特性(表皮効果)があります。結果として、薄い表面に電流が集中することで切開・凝固の作用もより表面的になり、金属メスのように鋭く切っていくことや、しっかりと止血することが難しくなっていきます。
人体の電撃閾値の周波数依存性
まとめ
電気メスそれぞれの性能は、こうした周波数や波形、電流、電圧など様々な電気的要素のバランスによって実現されています。電気を流すとなんで切れるのか、なんで止血できるのかの仕組については、また別の記事にてお話させていただきます。