肺リクルートメントについて
目的
肺リクルートメントとは、挿管され人工呼吸器に繋がっている患者さんに実施される手技のひとつです。一般的には40mmHg±5mmHgの陽圧を一定時間(30~40秒であることが多い)かけて、肺を膨らませるような手技で知られています。なぜそのようなことをするかというと、患者さんの虚脱した肺に圧をかけることで、虚脱した肺を再び膨らませガス交換に関わらせるようにするために行います。
シチュエーション
頻用される場面としては、ICUで加療中にCTやレントゲンなどで無気肺が見つかったため、肺コンプライアンスを向上させる目的でリクルートメントを実施したり、手術室で挿管され高濃度の酸素を投与することで、一時的に無気肺を助長してしまうことが見受けられる際に、予防的にリクルートメントを実施し、ガス交換機能向上に努めるなど、主にクリティカル領域で活用されている手技です。
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肺リクルートメントによって得られる効果
肺リクルートメントの主な効果は、酸素化の改善、コンプライアンスの改善、肺損傷の回避です。
一時的に肺を膨らませ、虚脱肺胞をガス交換に再び関与させるようにすることで、酸素化の改善とコンプライアンスの改善が見込めます。またリクルートメントにより均一な肺胞換気が実現することで、肺胞同士のズリ(摩擦)を軽減させ、人工呼吸器関連肺傷害(VALI;Ventilator Associated Lung Injury)を回避する効果も期待できます。
注意すべき点
解剖学上、肺は胸腔内に存在します。肺リクルートメントにより一時的に高い陽圧をかけることで、胸腔内圧が上昇します。それに伴い周辺臓器(主に中心静脈や心臓、大動脈)に外側から高い圧がかかるので、静脈還流が妨げられ、心臓に流入する血液量が減ってしまい、心拍出量の低下を引き起こしてしまうリスクがあります。加えて胸腔内圧が上昇することで頭蓋内圧亢進のリスクが伴います。また肺実質にも圧が直接かかるので、高すぎる陽圧により肺が傷ついてしまうこと(急性肺損傷:ALI)もあります。
肺のクリアランスを向上する目的の手技である一方、上記のようなリスクも伴う手技であるので、リクルートメントを実施する際には、リクルートメントを実施してよい患者なのか、上記のことを考慮したモニタリング体制が整っているのかを確認することが望ましいでしょう。
まとめ
近年肺リクルートメントという手技が一般的になったことで、肺コンプライアンスおよび気道クリアランス向上を図れる手段が増えたと言えます。しかし有効的な手段である一方で、患者さんへの侵襲度も高い手技であることを十分ご理解頂き、患者さんのよりよい予後のためのアセスメントと介入が望ましいでしょう。